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業界共通基盤でデジタル変革を加速!カスタマーサクセスを導くハイブリッドクラウド

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石橋 達司

石橋 達司
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
パートナー AWS Strategic Partnership Leader

B to B、B to CビジネスのITコンサルタントやプロダクトマーケティング責任者として20年以上ITサービスに従事。2021年に日本IBMに入社。IBMコンサルティング事業本部パートナーとして、Amazon Web Services(AWS)とのアライアンスおよび案件獲得のための提案活動をリード。ハイブリッドクラウドおよびマルチクラウド環境におけるお客様のデジタル変革を支援している。

 

二上 哲也

二上 哲也
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部 CTO
執行役員 IBMフェロー

1990年に日本IBMの開発製造部門に入社。Java/Web技術によるシステム構築を推進し、2004年からはサービス部門にて大規模Javaプロジェクトのリード・アーキテクトとして活動。2010年からはIBM Distinguished Engineer(技術理事)として、APIやBlockchain、AIやクラウドなど最新技術によるシステム構築の変革をリード。2021年4月にIBM フェローに就任し、執行役員 IBMコンサルティング事業本部 CTOとして、プラットフォーム共創を推進している。

拡張性や柔軟性の高いクラウドは、ITサービスを構築するうえで当然の選択肢となった。カスタマーサクセスを常に考える日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)は、企業の要望に最適なITサービスを届けるため、「Amazon Web Services(以下、AWS)」をフル活用し、デジタル変革や複雑なビジネス課題をお客様企業と伴走しながら解決している。

2022年5月、AWSを学ぶイベント「AWS Summit Online(IBM外のWebサイトへ)」が開催され、IBMは「業界共通基盤でデジタル変革を加速!カスタマーサクセスを導くハイブリッドクラウド(オンデマンドで視聴)」と題したセッションを行った。本稿では、そのセッションをもとにIBMのハイブリッドクラウドへの取り組みと実績、そして、業界に特化したクラウド基盤であるデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)について解説する。

スピード・効率・イノベーションの最適解となるハイブリッドクラウド

前半では、IBMのハイブリッドクラウドへの取り組みについて、IBM コンサルティング事業本部 パートナー AWS Strategic Partnership Leaderの石橋達司が解説した。

ハイブリッドクラウドは、デジタル変革を加速するために必要であり、企業において、既存のアセットの有効活用とクラウドのスピード・効率・イノベーションを享受する最適解です。さらに、コンテナ技術の基盤として「Red Hat OpenShift(以下、RHOS)」を組み合わせることで、オンプレミスとクラウドのリソースを接続する共通のプラットフォーム(RHOSを活用したコンテナ・プラットフォーム)を構築できます。

それにより開発時の俊敏性や運用時の効率化を実現。クラウドやオンプレミス、それぞれで開発したアプリケーションを相互に移行しやすくなり、運用管理は共通化され、アプリケーションとデータの両方に柔軟性と可搬性をもたらしました。

出典:IBM

企業が抱える、デジタル変革のための環境整備、IT投資やコスト最適化といった課題を解決するためには、先述したハイブリッドクラウドによるアプリケーションとデータの柔軟性と可搬性が重要となります。さらに、その柔軟性と可搬性を実現するためには、アプリケーション・モダナイゼーションによる既存のIT資産と最新テクノロジーの活用が欠かせません。

モダナイゼーションとは、中核となるビジネス・ロジックを維持、再利用しながら、リエンジニアリングやリファクタリングによって必要なアプリケーションを短期間で修正、あるいは機能拡張できるようにすることを言います。

ROSAの利用で開発スピードは約2倍に。運用コストも大幅削減

AWSでコンテナ技術の基盤であるRHOSを利用することができるフルマネージドのサービスが「Red Hat OpenShift Services on AWS(以下、ROSA)」です。ROSAは2021年3月から提供が開始されたサービスで、効率的にクラウドのリソースを活用し、また、事業に適した共通の基盤を構築することができます。さらに、「Operator」による自動運用が可能で、クラウド同様のマネージドサービスを提供することにより、プラットフォームに依存しない機能を実現しています。

このROSAを利用すれば、RHOSのクラスタ維持・運用に関わる作業はRed HatとAWSに任せることができ、運用負荷も低減。企業は、ビジネス・ロジックを含むアプリケーション・ライフサイクルの管理に注力することができます。そして、ROSAの利用によって、約2倍の開発スピード、25%の運用コストダウンとともに安定稼働にもつながります。環境に依存しない一貫したハイブリッドクラウドが実現するのです。

出典:IBM

ハイブリッドクラウドを活用したお客様企業の事例

金融、保険、製造、官公庁などあらゆる業界で、非常に幅広い領域にハイブリッドクラウドが活用されています。企業は、急激で予測が難しい非連続的な変化に対応するため、試行錯誤しながらデジタル変革に取り組んでいるのです。以下に変革を続けるお客様企業を紹介します。

事例:中外製薬工業の「AR(拡張現実)による遠隔サポート」

医薬品の製造では、多品種・少量生産を実現できるよう、プラントや製造機器が複雑化しています。それら最新の機器や設備においてトラブルを未然に防ぐためには、日々のメンテナンスがとても重要で、故障時には素早い修理・復旧が求められます。さらに、機器類の操作ミスが起こらないよう人による多重の確認を行うため、人手不足や作業の効率化といった課題も生じます。

これらの課題を解決するため、モバイルを活用した遠隔からのAR(拡張現実)による支援や、作業記録のデジタル化を実施しました。機器をモバイルカメラで映しながら、画面上に3Dで修理箇所を表示したり、過去の作業記録の写真や書類を確認したりしながら操作できるようにしました。AWSを使うことで、IBM製品を動かすだけでなく、アクセス拠点やユーザー数の増加にも対応できる柔軟性やセキュアな環境も確保できました。AWSのサービスをよく理解している技術者が多くいたので、技術課題があってもプロジェクトをスムーズに進めることができました。結果として、作業の確認や機器メンテナンスが効率化され、生産性や信頼性の向上だけでなく、働き方変革の推進にもつながっています。

事例:かんぽシステムソリューションズの「AWS利用の標準化」

かんぽシステムソリューションズは、かんぽ生命保険のIT戦略パートナーとして、システム開発と運用で中心的な役割を担っています。デジタル変革が待ったなしの状況で、概念検証(PoC)の早期実施やアプリケーション開発などのニーズが高まっていました。そこで、かんぽシステムソリューションズは、AWS上に標準化されたウェブ3層システムの環境を、早期に提供できる仕組み作りを行いました。

IBMは、AWSのベストプラクティスを踏まえつつ、AWSへの既存システムの移植、テンプレートや標準化設計書の作成などでも協業し、システム環境作りをサポートしました。その結果、インフラ構築や管理の負担を低減しつつ、迅速かつ社内の設計基準を満たしたクラウドネイティブな環境の提供が可能となったのです。

事例:朝日新聞社の「選挙調査におけるデジタル変革」

選挙報道では、有権者の判断に必要な情報を正確に発信する必要があります。そのため、従来の情報収集は、記者が現場を回って取材する方法が主流でした。例えば、立候補者の事務所に出向き、選挙調査表に必要事項を書き込んでもらい、それを集約していたのです。

この情報収集の膨大な時間と労力をデジタルに置き換えることで、課題解決を目指しました。開発期間が限られていたため、要件検討やプロトタイプ作成など、リリースまでのサイクルを高速に回す必要がありました。そのため、AWSでのアジャイルな開発手法を取り入れました。また、ミッションクリティカルなシステムで、無停止で新機能のリリースやバージョンアップを行う必要があったため、AWS上でのクラウドネイティブなアプリ開発と、CI/CD(継続的インテグレーションとデリバリー)により、週1回の無停止リリースを実現しました。このデジタル化により、従来であれば、担当記者とこの時期だけの専任チームで何日もかかっていた選挙調査表の配布・回収が、担当記者だけ、かつ短期間で対応できるようになったのです。

DX基盤の共創を加速するデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)

デジタル変革は、企業によって課題はさまざま。一方で、共通の課題や作業負荷もある。IBMでは、デジタル変革をより高品質で効率よく進めるため、今まで培ってきたノウハウや業界の汎用課題を踏ふまえて、デジタルサービス・プラットフォーム(以下、DSP)を提供している。

セッション後半では、そのDSPについて、日本IBM執行役員・IBMフェローの二上哲也が解説した。

お客様企業と一緒にDXに携わる中で、「構築スピードを向上させたいけれども開発管理や基盤運用の準備に時間がかかってしまう」「さまざまなクラウド機能を各部門がそれぞれ選定したり検証したりしてしまい、全体的に非効率になってしまう」「クラウドとオンプレミスの両方でアプリケーションを利用したいが、クラウドで作ったアプリケーションをオンプレミスで使うことが難しい」「DXの重要性は増しているが、運用を含めた品質がなかなか向上していかない」といった課題をよくお聞きします。

こうした課題に対し、IBMでは、以下のようなソリューションが有効だと考えています。そして、これらのソリューションをセットで提供しているのがDSPです。

  • 効率的なDevOps(開発者と運用者の連携による開発手法)の仕組みと実行基盤の運用自動化をあらかじめ整備して展開することで、構築スピードを向上させるソリューション
  • グループ共通の機能セットをあらかじめ構築・テストし、各事業部などに配ることで効率を上げるソリューション
  • オープンなテクノロジーを活用し、海外展開やオンプレミス展開を可能にすることで、さまざまなシステムを再利用可能にしていくソリューション
  • ハイブリッドクラウド環境を統合的に管理し、AIで自動化することで運用品質を向上させていくソリューション

出典:IBM

金融、ヘルスケア、流通。業界の汎用課題に適したDSP

例えば、金融業界向けDSPは、DSPの上にアプリケーションやソフトウェアを乗せて稼働させることができます。銀行で使われることが多い勘定系などのメインフレームと連携するための機能は、あらかじめ備えています。また、口座管理やそのほかの手続きなども業務マイクロサービスとしてあらかじめ作ったうえで提供しています。この金融DSPは、モバイルアプリなどを作るときの基盤としても活用できるため、より開発スピードを早める、コストを削減することが可能になります。

出典:IBM

ヘルスケアDSPは、保険会社と患者・契約者などをデジタルに連携させ、電子カルテなどの必要な情報を、電子データとして保険会社と共有します。それにより、これまで患者や保険会社の手作業だった保険申請などの手続きはデジタル化され、より簡単に便利になるのです。これは、業界をまたがったDSPと言えます。

そのほか、資源循環やCO2削減などに特化したサスティナビリティ分野のDSP、流通業界における需要予測などのための流通DSP、スマート・ファクトリーを実現するための製造DSP、さまざまなAIの機能を企業で使いやすいパッケージにしたエンタープライズAIのDSPなど、さまざまな業界や事業に役立つDSPを提供しています。

DevSecOpsによりスピーディーでセキュアなソフトウェア開発を実現

金融、製造、ヘルスケアなど業界別にDSPを作っていく中で、DSPそのものにも開発環境、運用環境、セキュリティーなどの共通機能があることに気付きました。これらは業界が違ってもほぼ同じです。そこで、DSPそのものの共通基盤も用意しています。この共通基盤は組み合わせ可能で、クラウドでもオンプレミスでも動くハイブリッドクラウド基盤です。

ハイブリッドクラウド基盤には、さまざまなオープンソースやテクノロジーなど、いくつかの構成要素がありますが、その一つが「DevSecOps」です。開発(development)、セキュリティー(security)、運用(operations)を略したもので、ソフトウェア開発サイクルの中に、必ず脆弱性検知やソースコード検証などのセキュリティー確認を自動的に組み込み、アジャイルでセキュアなソフトウェアの開発を実現します。さらに、運用の効率化を可能にする運用自動化センターも合わせて提供しています。

運用の観点では、自動化することでコスト削減や運用を迅速に行うことが可能になります。例えば、「IBM Watson」を使ったログ管理分析、もしくは「Turbonomic Application Resource Management for IBM Cloud Paks」を使ってより最適なリソースを配置していきます。また、アプリケーションごとの応答時間などのパフォーマンスを「IBM Observability by Instana APM」を使って管理することで、何かあったらアクションを実行する、そのアクションの実行を自動化するといった機能も備えています。

以上のように、IBMは、業界別のDSPやDSPの共通基盤、さらにDSPに限らずさまざまなテクノロジーを活用して企業のDX推進のスピードを加速していきたいと考えています。企業が、新しいアプリや顧客向けの新サービスを構築し、グループ企業もしくはグローバル展開をする際、ハイブリッドクラウドにおいてコンテナ技術を活用することで、クラウドでもオンプレミスでも動かすことが可能になります。さらに、運用の自動化は、運用品質の向上につながるでしょう。

企業のDXを成功させ、ビジネスがさらに発展するよう、IBMはお客様企業とデジタルサービスを共創していきます。